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世界は汚いものだけで作られているわけじゃない。
でも、きれいなだけでもない。
人間もそうだ。
どんなに素敵な人の内面にも、
どんなに素晴らしいことをしている人の内面にも、
どす黒いものはある。
そういうものなんだ。
私は溝に生まれた。
溝の水を飲み、溝の中を住み家として生きた。
そこから見える景色は、悲しいくらいに、汚いものだった。
きれいなものを見たくて、
私は自分の目を潰すことにした。
ヘドロがまといつく感覚は、とても気持ち悪かった。
だから私は自分の皮膚を焼いてしまった。
こうやって、私は世界を自分から積極的にあきらめていった。
どんどん私は孤独になっていった。自分で自分の存在を見失うほど、私は何ものからも切り離され、ついには自分からも切り捨てられた。
溝に生まれ、そこから動けなかった私は、溝から見える景色と溝に住む生き物しか知らなかった。そこが私の世界のすべてだった。
4年半前はじめて溝から出た私は、世界はきれいで汚いのだと知った。二つの面を、内包しているのだと、知った。
そして、人も、その小さな宇宙の中に、二つの面を隠しているのだと知った。
溝の生き物は、そのことに衝撃を受けた。知っていたものは、世界の一部でしかなかった。
きれいごとばかりを言う人が嫌いだった。
でも、そのきれいな言葉にどうしようもなく引き寄せられて酔っぱらってしまうことも確かだった。
溝の中で、どれだけ美しいものに飢えていたのかを思い知って、心がぎゅうっと締め付けられた。
人生に対する能天気な甘さに反吐がでた。
でも、人生の僥倖を信じられるその心の素直さにめまいを起こすほどあこがれた。
溝の中で、どれだけ心を荒ませて、疑うことばかりを覚えただろう。
信念より、助けたい他人より、自分の命の方が大切だと言い切る人を憎んだ。
でも、自分の命が大事だといえるその正直さや無防備さを、歯がみするほど羨んだ。
守りたかった自分の心さえ、守れなかった。そんな生を生きるしかなかった生き物が、ここにいるのに。
汚してしまいたいと、
世界を黒く塗りつぶしたいと、
願わなかったわけがない。
私は、溝にいる間、人間になることを許されなかったのだ。
やさしい言葉は、
温かい励ましは、
友人という言葉は、
暖かい陽の光のような友愛は、
私を焼き切るレーザー光線くらい、激しく熱く鋭かった。
ぬくまるどころか、蒸発してしまう。
私は、そういった世界も、感情も、関係性も、知らずにいたのだから。溝の生き物だったのだから。
当事者の背中を必死に押す支援者がいる。
社会に、世界に、自分の言葉を吐きだせ、表現しろと。
社会を変えたいなら、表現をしっかりしないと始まらないのはわかる。
でも、その前に、『ただ、生きる』それだけに命も心も精いっぱい使い尽くしている生き物もいると知ってもらえたら。
社会への怒りは、まだわからないの。
自分の命が大事だと、まだ知らないの。
繭の中でまださなぎのように、自分を眠らせている。
でも、中では化学変化が起こっているの。
信じて。
待って。
溝の中の生き物だった、私からのお願いだ。
homura